阿部耕也の紅茶日記
インドから吹く風 12/7 by Ryoko

 お客様から下記のようなご質問が寄せられました。
ガネッシュの2000年夏茶の保証書のダージリンリーフティーの品質が『SFTGFOP1』と書いてあります。『FTGFOP1』とどう違うのですか?
紅茶にはランクがあり、最高の品質を表すのが『FTGFOP1』であることは、今や紅茶ファンならどなたでもご存じだと思います。でもこのランクがどのようにして分けられ、決められているのかを知る方はあまり多くないのではないでしょうか?そういう私も、何度も農園に足を運んで修行を積んだ社長から直々に教えてもらっていても、もうひとつ納得出来ないでおりました。そんなわたしがダージリンの茶農園を実際に見学してみて霧に包まれたような知識を一気に晴らすことが出来ました。
紅茶の製造は大まかに言うと、摘みとった生葉を『いちょう』という水分をとばしてしおれさす作業から始まり、ローリング、発酵、乾燥という工程を経て出来上がります。この工程の途中に一芯二葉と大きくて固い三葉をわける作業が入ったり、また、乾燥され仕上げの段階で茶葉をふるいにかけ等級別に分ける工程が入ったりします。
さて、そこで私が何をずっと疑問に思い続けていたかというと「目の大きさの違うふるいにかけたところで形の違いはわけることが出来ても、味の違いを選別することにはならないのではないか?」ということでした。
確かに今回何カ所かの農園を見学させてもらって,ふるいにかけてこちらに落ちてきたのが『FTGFOP1』で、こちらは『BOP』こちらのお茶は『OP』」というように説明してくれた農園もありました。しかし仕上がった紅茶の形や大きさが、なぜ今日は当たり前になった品質、グレイドの違い、ひいては値段の違いになるのでしょうか?
 私達が新茶の紅茶を発売し始めた1983年当時は『FTGFOP1』ということ、そして、その意味を正確に伝えているメーカーはもちろんありませんでしたし、このことを日本で一番最初に知らせ始めた時はどなたでもご存知の大きな紅茶のメーカーからクレームの手紙まで来たほどでした。しかし、時を経た今日、『FTGFOP1』は紅茶の最高ランクであり、美味しさを表すものであることは言うまでもないことになりました。当然、オークションでも『OP(オレンジ・ペコ)』より『FOP』が高い値で取り引きされ『FTGFOP1』は『OP』や『FOP』の何倍もの高値で取り引きされます。『FTGFOP1』というこの等級が茶葉の大きさや形の違いを表すだけのものではなく品質の良し悪し、美味しさを表すものであることは明らかです。ふるいにかけて茶葉の形で味の良さを分けることができるなんて私だけでなく誰も思いませんよね。そこで私はRisheehat農園を見学させてもらってこの謎が一気に解けたのです。上等な香りとまろやかで上品な味わいを出すために一芯二葉を摘むことが等級の高い紅茶を作る大切な要素であるのですから、摘む段階で一芯二葉だけを摘めばいいわけですし、製造中に一芯二葉以外の茶葉が混じらないようにすればいいだけなのです。そうすることで茶葉の大きさや形、縒り、色の揃った茶葉が出来上がり、味、香り、水色もすばらしいものになるのです。ダージリンにある80以上の農園を全部見たわけではないのですが、高値で取引される『FTGFOP1』を作るための研究と努力が製造方法を変えさせ、そして今日ではもっともっと良い紅茶、世界が求める味の紅茶を作ろうと意欲に燃えている農園が増えてきて、ダージリンティーの製法もどんどん変化してきています。
 そのひとつの現れが『S』をつけた『SFTGFOP1』です。これは、例えば日本で高級品がいつの間にかその表現ではもの足りなくなって超高級品、最上級品、極上品などどんどんエスカレートしていきますよね。SFTGFOP1はまさにこれです。Sの意味はSpecialのSです。Special Fine Tippy Golden Flowerly Orange Pekoe の頭文字です。紅茶のランク付けは農園の判断に任されていてインド国内にランク付けをする公的機関があるわけではありません。ですから今の段階でSFTGFOP1 とFTGFOP1に大きな違いがあるとは考えることは出来ません。だからといって闇雲にランクを高く付ければいいかといったらそうはいきません。なぜならどんなにランクを高くつけたところで美味しいと評価されなければオークションでは高値はつきませんし、却って農園としての評価をおとすだけです。
 過去ガネッシュではダージリンティーだけで30農園近くのお茶を競り落としています。農園を伏せてのブラインドテストですが、もう何度も競り落としているお馴染みの農園もありますし、1回だけではなく2回、3回、4回と競り落とす場合が多いようです。その中でもRisheehat農園は10回以上選んでおります。
新茶の紅茶ガネッシュが競り落としている紅茶が、活気に満ちた研究熱心な農園で作られていることは本当にうれしいことです(Ryoko記)。