Tea Room 森のらくだ

文:ガネッシュ編集部 /写真:SorAsha

ガネッシュの紅茶を楽しめる
全国のティールームをご紹介

仙台市定禅寺通りに位置する株式会社ガネッシュ直営のガネッシュ・ティールーム。1984年にオープンしたこのティールームは全国の紅茶ファンに愛され、「この一杯」のためにたくさんのお客さまが遠くから足を運んでくださいます。
でもやっぱり遠くてなかなか……そんな方にお知らせしたい。ガネッシュの新茶の紅茶を楽しめる素敵なティールームは、定禅寺通り以外にも全国各地にございます!

今日はその中から、大阪市中央区にある『Tea Room 森のらくだ』さんをご紹介しましょう。

 

細長い店内を柔らかな光が包み、訪れる人のこころがふっと緩むような空間……オーナーの色摩千晶(しかまちあき)さんが描く黒板が迎えてくれるここは『Tea Room 森のらくだ』。

ーー『森のらくだ』……考えてみるとちょっと不思議なお名前ですね。らくだは森ではなく砂漠にいるイメージが強いですが……。

(色摩さん(以下同じ))
壁に飾っているパウル・クレーという画家の「リズミカルな森のらくだ」から名前をもらいました。
ずっと以前に訪れた展覧会でこの絵に一目惚れし、複製画を買って、それ以来「店するときは飾んねん!」って思っていたんです。(編集注:色摩さんは奈良のご出身です。)

ーー「店するときは」……ということは、随分前からティールームをオープンする予定があったんですか?

うーん、なんとなく、です。
元々小さい時はケーキ屋さんになりたくて。小学校にあがる前から母親が行くケーキ教室についていったりしていました。家で母が作ってくれるケーキもおいしかったんですが、母はひとつ作ると「次からは自分で作ってね」って。

 

ーースパルタ(笑)

そう、でもおかげで自分で作るようになりました。でも基本のスポンジケーキがなかなかうまくできなくって、高校生のときに、ケーキ作りはいったん投げ出しちゃったんです。

 

ーーいったん投げ出したケーキ作りを再開したきっかけは?

大学卒業後に銀行に就職したのですが、その時の職場にすっごく食いしん坊の先輩がいて、上手におだててくれるんですよ。おだてられて作って、先輩に食べさせて、またおだててもらって。その繰り返しで毎週土日にせっせと焼き続けました。

 

ーー銀行のお勤めは長かったんですか?

「大変だったけど働いてよかったな」って思えたら辞めよう、と思っていたんですが、腰が重いままに気がついたら8年も経っていました。
銀行を辞めた後は退職金と失業保険でやりくりしながら、辻製菓専門学校の夜間部に1年半通いました。いったん諦めたスポンジケーキ攻略のきっかけになった本を書いた先生がそこで教えていらっしゃったんです。
卒業後にケーキ屋に就職しました。

ーーケーキ屋さんに就職。ご自身の幼い頃の夢である「ケーキ屋さん」開店にググッと近づきましたね。

そうですね。でも、実際にケーキ屋で働いてみると、ショーウィンドウにケーキを何個も並べるスタイルで店を持つというイメージは、どうしても自分にしっくりこなかった。ケーキ屋という形態は本当に自分に合っているのかしら、と。
店をやるなら一人でやりたかったんです。手を拡げて人を雇って店をやるというよりも、自分の目が届く範囲で自分で自分が作りたい好きなケーキを数種類だけ作り続けていきたい、と思いました。
それだったら、ケーキ屋よりも喫茶店かなぁ、という漠然としたイメージをもったまま、ケーキ屋で働き続けました。

就職して6年経って、ケーキ屋の社長が体調を崩して店を閉めることになりました。
仕事が無くなってぼーっとしていたときに、大好きだった宮本輝さんの「錦繍(きんしゅう)」という小説の舞台になっていた宮城県の蔵王を訪れる機会がありました。
蔵王のついでに仙台をぶらぶらする時間があったので、将来開くかもしれない喫茶店の下調べのため、というつもりで、事前にガイドブックで調べたカフェ情報を頼りに1日で3軒の喫茶店を巡ったんです。

喫茶店を開くなら、私が作るケーキを助けてくれる、ケーキの魅力を引き立ててくれるような、強力な助っ人になる飲み物がほしい、と思っていました。
でも喫茶店といえばほぼコーヒーですよね。そのとき巡った1軒目の喫茶店の売りはやっぱりコーヒー。2軒目もコーヒー。そして3軒目に訪れたのがガネッシュさんのティールーム(定禅寺通店)でした。

 

ーー紅茶にはあまり興味がなかった?

いえ、以前から紅茶は好きでした。特に朝に母が入れてくれる紅茶が好きでしたね。
でも正直、外で飲む紅茶には全く期待していませんでした。どこで飲んでも美味しいと思ったことがなかったので。
そのときガネッシュさんのティールームで紅茶をいただいて、初めて外で飲む紅茶が美味しいと思った!

ーーそれがきっかけとなってガネッシュの紅茶講座を受講されたんですね。

実は紅茶講座を受講したのは、ティールームを訪れた直後ではないんです。しばらく経ってからでした。
プライベートがなにか煮え切らない時期で、友達にウダウダと相談をしているときに「やりたいことを100個書き出して、上からやってみたらいいよ!」とアドバイスを受けたんです。
実際に100個書き出してみて、かなり上位にあったのが、ガネッシュさんのティールームでみたパンフレットの紅茶講座でした。

 

ーー受講されてみていかがでしたか?

1回目の講座は仙台まで行って受講しました。(編集注:紅茶講座は日本全国各地で開催可能です。ご相談ください。)
阿部先生にいろんな質問をされたのは覚えていますが、とにかく何も答えられなかった。「喫茶店やりたい…です……」みたいな感じで(笑)
その後も何度か講座を受けたのですが、なかなか決心がつきませんでしたね。大丈夫かな、続けていけるかな、つぶしてしまうんじゃないかな、って、始める前から不安だらけで。
最終的に阿部先生に背中を押されて開店を決めました。自分でタイミングを待っていたら、一生オープンできなかったと思います。

 

ーー開店にあたって、どのように準備を進められましたか?

講座を受けたあと、阿部先生の勧めでガネッシュさんのお茶を扱っているティールームを何箇所か訪ねました。
開店を決めたはいいもののお茶を入れることに関しては全くの素人だったので、ガネッシュさんで10日間の研修を受けました。
その研修ではガネッシュさんの紅茶を使ったケーキも教えていただきました。いま『森のらくだ』で提供している紅茶のシフォンケーキ等は、10年近く経った今でもこのとき習ったレシピがベースになっています。

ーーティールームの立地や内装工事等の準備はいかがでしたか?

場所は実家のある奈良から近い大阪を考えていました。不動産屋さんに紹介された物件を、阿部先生といっしょに見て回りました。いくつも回ったうちのひとつが今の場所です。
物件を回る前になんとなく、川沿いで、ガネッシュさん(編集注:ティールーム定禅寺通店)と同じ2階で、窓から川が見えて……というイメージを持っていたのですが、実際に決定した今の場所は、オフィス街の真ん中で、1階で、川はない(笑) 元のイメージとは違いましたが、私にはティールーム経営の経験もノウハウも無いので、阿部先生の意見を全面的に頼ることにしました。ここはこじんまりした会社が多いエリアで、歩いている人があくせくしていないのがいいな、と思います。

内装は知り合いの業者さんにお願いしようと思って準備を進めたのですが、やりとりする中でちょっと私のイメージするティールームと方向性が違ってきてしまって……。
最終的に、阿部先生に紹介を受けた工事業者さんにお願いしました。ガネッシュの紅茶を扱う他のティールームも手がけたことがある業者さんでしたので、飾り棚の位置等、細かいところまで気が利いた仕上げをしてくださって、とても満足しています。

椅子の座り心地が大事と阿部先生がおっしゃっていたので、椅子とテーブルは自分でいくつか候補をあげて、実際に阿部先生にみてもらって決めました。

ーーそしていよいよオープンですね。

はい。これも阿部先生のアドバイスだったのですが、雰囲気がいいなぁと思った雑誌を発行している出版社4-5社に「こんなティールームをオープンします」と手紙を出しました。実際に取材に来ていただいて、雑誌にも紹介されました。
他には、最寄駅の前でオープンの案内チラシを配りました。

 

ーースタートはいかがでしたか?

正直、最初の半年はつらかったです。辛いといっても、店の経営がどうこうという話ではなくって。
私はもともと、「ちょっとずつ忙しくなればいい」という考えでした。わーってお客さまがいらしてもどうせこなせないとわかっていたんです。少しずつスキルアップして、そのうちお客さまの数と自分の実力がリンクすればいいな、って。

実際にスタートしてみると、特に、お客さまとどう接したらよいのか、どう距離をとったらよいのかわからなくて戸惑いました。そのうち、お客さまが来てくださること自体をプレッシャーに感じるようになってしまって……。
そんな気持ちのままどうにかやり続けていましたが、オープンから半年後、ついに気持ちが切れてしまって、結局お店を丸1ヶ月半休みました。

それまで小さい頃からケーキ作り大好きで生きてきた私が、ケーキを焼く気力もなく、休んでいる間は市販のお菓子を買っていました。一大事です。
そんなときでもなぜか紅茶だけは自分で入れて飲んでいましたねぇ。不思議です。ガネッシュさんのお茶は、そういう不思議なパワーのある紅茶なんだと思います。

ーー1ヶ月半のお休み。何か復活のきっかけはあったのでしょうか。

最初はとにかく寝てひたすら身体と心を休めました。悩みすぎて疲れていたんですね。

そのあとの回復期に、阿部先生が書いた本(下記 *編集注)を読み直して、そのときやっと本の内容が腹に落ちた感覚があったんです。
この時をきっかけに、「がんばる」の定義が変わった気がします。自分に無理をして頑張っている感じがなくなった。前は気持ちばかりが先行して体がついていかなかった、そのギャップが嫌だったけれど、これからはがんばれる分だけがんばったらそれでいい、そんな覚悟で復帰を決めました。

ーー辛い時期を乗り越えて、もうじき10年。今はどんなスタンスでお店と向き合っていらっしゃるのでしょう。平日は営業時間がお昼の12時から夜8時まで。土曜日と祝日は夕方6時まで。お休みは日曜日だけですよね。おひとりで大変ではありませんか?

営業時間は、オープン以来、変更に次ぐ変更を繰り返しています(笑) この営業時間に落ち着いてしばらく経ちましたが、今のところいい感じです。急な変更などはブログでお知らせしています。

 

ーー仕込みなどの作業も全部おひとりですか?

はい、一切お手伝いなしです。もともと一人で全部をやりたくて始めたお店ですので。
毎日ケーキやその他の焼き菓子、ガネッシュさんのカレー粉で作るカレーのトッピング具材の仕込み等々があるので、朝8時には店に来て準備を始めます。帰りは終電近くになることもしょっちゅうです。
でもこの仕込み作業が好きだし、ラジオを聴きながら作業するこの時間は趣味のひとつのようなもの。楽しんでいます。
これからもひとりの利点であるフレキシブルさや気楽さを活かしながら、無理のないように楽しんでいきたいと思っています。

 

 

12時の開店を合図に『森のらくだ』をひっきりなしに訪れるたくさんのお客さまを観察すると、みなさん実にさまざまな楽しみ方をされていました。
ソファー席でお茶を片手にゆっくりとお友達との会話を楽しむおねえさま方。テーブル席でカレーをもりもりとほおばるサラリーマン風の方。窓越しの光の中で、季節のケーキと紅茶を楽しみながら本をめくる女性。色摩さんとの会話を楽しみにいらしているのであろう近所のおじいちゃま。

色摩さんが苦労の末にみつけたお客さまとの距離感はここを訪れる人みんなをリラックスさせ、次々と焼きあがる菓子の香りはどこまでも食欲を誘います。大都市大阪のオフィス街の中にひそやかに息づくオアシスのような空間です。

毎日変わる季節のケーキとカレーのトッピング、そしてそれらを一層いきいきと際立たせる新茶の紅茶を楽しみに、みなさまもぜひ、森をリズミカルに歩くらくだを探しに出かけてみてください。

 

*編集注:『紅茶に恋して』『ぼくはまいごじゃない』『わくわく森のあるき方』三部作。詳しくはお気軽にお問い合わせください。

 

<SHOP DATA>

Tea Room 森のらくだ
住所:大阪府大阪市中央区徳井町2-1-7
電話番号:06-6946-7080
営業時間:(月)〜(金) 12:00〜20:00, (土)(祝) 12:00〜18:00
定休日:日曜日(営業時間の変更や臨時休業については、店舗Webサイトをご確認ください。)