阿部耕也の紅茶日記
カルカッタのお茶屋で 6/30

 現在インドカルカッタでベンガル語とシタールを勉強中の妙齢の女性が一時帰国しています。その方と私は面識はないのですが、紅茶の話を聞きたいということでガネッシュを訪ねてきました。彼女は日本に帰国するにあたり、お土産に紅茶を買い求めることにしました。友達から美味しいと勧められた紅茶屋へ茶葉を買いに行った時の店主とのやりとりです。
彼女がカルカッタに留学して1年半。ベンガル語も自由に操れるようになり、そんな美しい日本の女性を面白がった店主はお薦めの春茶をずらっと並べ。試飲させてくれました。いろいろ説明してもらいながら飲んではみたけど、もう一つ味に満足出来ない彼女は「もっとマイルドなお茶が欲しい」とお願いしたら「それなら・・。」と出してきてくれたのが99年秋茶でした。それは何とも優しい味でこれならと気に入って15パックオーダー。あいにくあと10パック分しかないという茶葉を全部買い求めてきたそうです。彼女が言うには店主のお薦めは味が強すぎて美味しいと思えなっかったということでしたが、インドでは紅茶と言えばミルクで煮込んだチャイを指すのですから、ミルクに負けないように味が強くでる茶葉の方が適しているのを見込んでの事だったのでしょう。
一概には言えませんが紅茶は摘みたてすぐよりも少し時間をおいた方が口当たりがまろやかになります。新鮮な茶葉で立てる事は美味しい紅茶を飲むためにとても大切なことですが、早さだけを競って良しとしても徐々に味が変わってくるということはよく聞く話です。私達も茶葉を試飲してオークションで競り落とす時はその点に注意しながらテイスティングします。大分前、ほんとに随分前の事ですが、やはり春茶でとても魅力的な味わいの茶葉と出会いました。茶木の樹齢が少々若い点が気になりましたが、思い切って仕入れました。ところがです。届いてみたら「あれっ??この味だったかな?」と覚えのない味になって好き嫌いが二分する結果になってしまいました。テイスティングの段階で産地はもちろん樹齢、樹の健康状態まで推測出来るのですが、その時はちょっと冒険し過ぎたと反省したものでした。
 ガネッシュでは3ヶ月先の味が安定する時期に、この茶葉がどんな味・香り・水色になるかまで見越して競り落とします。それは良質な茶葉でなくては望めない上品な味わいをずうっと保証できるお茶をお届けするためには欠かせないことです。皆さんが茶葉を買い求めたらすぐ飲み終わるなら別ですが、最後まで美味しい茶葉であって欲しいとすれば安定した美味しさの茶葉を求められた方がいいわけです。「春茶」「春茶」と早さにこだわっても、春茶の本当に美味しい時期は摘み取ってから3ヶ月先にあるのです。