テンジンのおしえ
一杯の紅茶

文:ガネッシュティーテイスターK /写真:SorAsha

混沌とした先の見えない日々。
不安だけが独り歩きしています。
これは独りだけの事じゃない、世界中の皆んなが同じ傘の下で不安を感じています。

今から約40年前、エベレスト初登頂者のテンジン・シェルパ・ノルゲ氏は、日本から紅茶を学びに来たわたくしを温かく迎えてくれました。
彼からもらった指導とは『イメージさせ、そして投げ掛ける』でした。
具体的にはこうです。

「さて、こういう状況になったら君はどうする?」そして、「何故君はその選択をしたの?」と。
幾つものシチュエーション(想定)をもらい、感じ、考え、返答しては、「何故そう判断し、その選択をするの?」と問われました。

それはこれまでに無かった経験で、わたくしには苦しくも心地好いものでした。
そして時として答えに詰まるわたくしに「チャーイ」と温かくて甘いミルクティーを差し出してくれたのです。

彼は嵐のテントの中でもお茶を沸かし、翌日からの様々なシチュエーションを仲間とイメージし合ったそうです。
イメージし、シミュレーションすればする程、それが現実になった時に慌てない行動ができて、何度も命拾いをしたと実体験を話してくれました。

そしてわたくしがダージリンから下りる前にこの言葉をくれました。
『山に登る前にゆっくりお茶を飲んで、あらゆるイメージをしなさい。そして山(人生という山)を登る意義を考えなさい』と。

今、日々様々な処理し切れない程の情報の荒波に呑まれてしまいそうな私たちです。
独り、あるいは心が落ち着く隣人と、ゆっくりお茶を交わして、今後の事をイメージしてみてはどうでしょうか。

必ずやご自身に合う答えが降って来るはずです。
「私たちは一杯の紅茶で繋がっています。」