阿部耕也の紅茶日記
『Tea Room 森のらくだ』便り その4

Tea Room 森のらくだ 哲学会にて

 岡山を訪れた時、もう1人お世話になった森岡あゆみさん。紅茶日記にも登場されている方です。阿部先生の哲学会に参加された時の詳細なレポートを読んでいると、「こんなきちんとした文章を書く方はどんな方なのだろう」という期待に胸が膨らみました。

 「初めまして」

と笑顔の彼女は思わずこちらも笑顔になるようなやわらかい雰囲気をもっています。でも話し始めるとその口からは言葉がよどみなく出てくるのです。何故そう思うのか。自分はどうしたいのか。頭の中にきちんと整理されておさまっている。自分の想いを正直に誠実に伝えようとする気持ちにあふれている。初対面でありながらとても自然にお話ができたのは森岡さんの力なのだと思います。森岡さんは哲学会で自分の思考を整理することに出会っていなかったら今の自分はなかっただろうとおっしゃいました。私はお願いして2009年3月に広島で催される哲学会に参加させて頂くことになりました。3月までの2ヶ月、私は自分なりに今考えていることをノートに書きとめていくことにし、仕事の合間には大阪の街を歩いてどんな場所に魅力を感じるか、貸店舗がどんなところにあるのかを見ていました。ノートには、生まれてから今までを振り返って自分の価値観に影響があったと思うこと、ケーキが好きになったきっかけ、会社をやめたときの気持ち、なぜ趣味としてではなく仕事として紅茶とケーキに関わりたいのか、など、思いつくまま書きとめていました。

 書いていると感じることがありました。「書く」ということが私にとってとても大切な行為であることを改めて感じたのです。私は頭で考えているとぐるぐると同じところを回ることがあり、頭の中だけではどうも整理することができません。文章としてうまくまとまっていなくても、前後のつながりがおかしくても、その時思ったことを書く。自分の手でペンを握って書く。そうすると、時々書いている途中に考えがまとまったり、新しい考えが浮かんだりすることがあります。その考えは後でまた変わってしまうことはあるけれど、それでもその間にうねうねと曲線を描きながら答えがでたら、そのうねうねも書いてみる。それが私には良いことのようなのです。それを繰り返し繰り返し少しずつ考えがまとまる。とにかく自分とはものすごく不器用な人間であることを改めて知りました。この紅茶日記を書いていても、時々今更のように「ああ、私はこう考えているんだな」と気付いたり。

 2009年3月、広島での哲学会。いまだ忘れられぬ1日。仙台での紅茶講座をしのぐハードな1日でした。その日の私は完全に「見学者」のような心持ちで先生と参加者の皆さんがどんなやりとりをするのかを見学させてもらうつもりでした。ところが、会が始まるか始まらないかの時に先生が何気なく

 「で、今どんな感じなの?」

と私に話しかけられ、そこから一気に私への質問が始まりました。さっきまでは

「仙台に(私は大阪まで)帰る新幹線の中で少し話そう」

とおっしゃっていたので、突然の質問にまたもやびっくり!

 最初のうちは、先生が事前に考えられていたはずのテーマを話されずに私のことで大切な時間を使ってしまっていることが気になって

 「私のことは後でいいから……」

と思っていたのですが、途中で

 「今日はこのまま進むのだ」

と理解し、いよいよ先生の言葉と真正面から向かうことになりました。

 「君は考え込むこと自体が趣味なんじゃないか」

 「……」

 「岡山へいき、カメリアを見て、森岡さんと話し、そんな自分に満足しているのではないか」

 「……」

 「お店をやらずに紅茶のイベントを企画してみたらそれで十分じゃないの?」

 「そういうのは考えていません」

心の中で浮かぶ言葉はなかなか口からは出ない。心は「違う」と叫んでもどう違うのかをすぐに説明できるか?と自分に問いかけて考えてしまう。ゆっくり考える時も必要だけど、とにかく素早く反応することも大事、今も私の大きな課題。今も取り組み続けている課題です。沈黙が続いていても仕方ない。とにかく思っていることを何か言おう!先生の問いに答えられなくても、何か言おう!と以前から考えていたことを1つ話しました。

 「お勤めの人の中には出勤前にカフェでコーヒーを飲むことを習慣にしている人がいます。でも中には“紅茶にも同じような店があれば“と思う紅茶好きの人がいるのではないかと思います。特にミルクティーは朝にはぴったりの飲み物だと思います。そんな店はできないでしょうか」

 「ん?」

阿部先生、少し反応あり!

 「できないことは無いと思うよ」

おおっ!

 「ミルクティーをまとめて淹れたら、味が保てるのはどの位の時間ですか?」

 「30分が限度だろうね」

 「売れなければ廃棄のリスクがありますね」

 「そうだね」

…………。実はそれ以降の記憶がほとんど無いのです。再び記憶が戻った時には

 「仙台に研修にいらっしゃい。9月か10月ごろにしましょう。さっきのお店のアイディアは面白いけど、僕自身は「新茶の紅茶」をゆっくり楽しんでほしいと思っています。朝のミルクティーのアイディアはひとまず保留して研修をしながら検討していきましょう」

とおっしゃっていました。

 「????」

私はとっさには事態がつかめませんでした。何がどうなってこうなった?今でもよくわからないのです。わからないのですが、自分の中でのターニングポイントは「とにかく何か思うことを伝えよう」という気持ちで話したモーニングミルクティーの話だったように思っています。

哲学会に参加された方々は突然の展開を受け入れ、見守り、時には激を飛ばしながら支えて下さいました。本当に感謝しています。

 研修が始まるまでの半年間も色々なことがありました。Tea Roomちくたくの片岡さんとお会いしてオープンへ邁進する姿を目の当たりにしたこと。当初長期で計画されていた研修期間が短期に変更になったこと。そもそも研修は具体的な開業の目処がついた人が受けるものであり、それがなかった私が研修を受けさせて頂くことは本来ならば無理なことでした。しかも長期ということで最初は計画がありましたが、長期でゆっくりと学ぶことよりも、短期集中で技術を学び、開業のイメージを持ってその後行動すれば物件探しもスムースに行くのではないか、と阿部先生が考えて下さり、私も先生と話し合い、納得の結論となりました。

 そして2009年9月、仙台の研修へ向かうこととなりました。10日間という限られた時間でガネッシュオリジナルのお茶とお菓子をどこまで学べるのか?次のステップが待っていました。